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クター(ボランタリー・セクター)の長い歴史があり、行政との関係についても多くの経験がある。試みに、イギリス福祉分野を例にみてみよう4)。
イギリスの福祉において、市民セクターの役割は古く、このことは福祉サービスの提供において市民による責任を奨励した慈善に関する法律が、すでに1601年に制定されていることでも明らかである。その後、19世紀のとくにヴィクトリア(Victoria)女王時代に市民セクターの伝統の様々な要素が発展した。しかし、20世紀前半には、政府が市民セクターへの依存度が高い提供システムを反省するようになる。1940年代の所得援助、健康、教育に関する法律は包括的な福祉国家の展開のクライマックスであった。これによって、公共部門は福祉のサービス提供、資金提供、規制について基本的な責任を負うことになったのである。こうしたシステムにおいて、市民セクターについては長期間周辺的な役割が認識されるようになった。
その後1970年代になると、福祉国家に対する不満の増大という逆の方向に進むことになる。サービス提供の画一性、多様なニーズに対する反応の鈍化等が要因とされた。そこで、1970年代の末までに、国家の役割の減少という点も含めて、新しく代わるべき福祉のモデルが模索された。これらの中で有名なのが、「福祉多元主義」(welfare pluralism)である。このモデルではボランタリー組織に大きな役割を認めている。しかし、サッチャー政権誕生によって、とくにその後半においては、多くの公共サービスの分野において民間委託が実施され、市民セクターが有力な委託先になったり、援助を行うようになった。さらに同政権終期には、民間事業者と同等の位置づけで政府のサービスの提供主体として機能することが期待されるまでになった。
このようにイギリスの福祉分野を事例として考えてみると、市民セクターの役割あるいは政府との関係が時代によって大きく変わることが明らかになる。このことはイギリスだけではなく、市民セクターの役割が相応に評価されている各国に共通しているといえる。たとえば、アメリカ合衆国では、ボランティアのトレーニング・プログラムを展開する例があるほどその役割が期待されている。したがって、欧米諸国においては、市民セクターにかんする研究も数多く公表されている。本節では、そのうち主要なものを紹介しておこう。

 

(2) 「サード・セクター」と「新サード・セクター」
先にのべたように本報告書では、類似概念を総称して「市民セクター」を使用している

 

 

 

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